Andalucía




「今日は帰るね。」
心ここに在らず、その言葉が似合う表情の彼女はベッド脇に座りながらも床に落ちた服をいそいそと拾う。眉を潜めているから眉間に皺が寄り 口元はキツく結ばれていて、いつもの彼女らしくないとさえ感じた。

「ほんまに帰るん」
「…」
「朝まで一緒にいたいって言ったらこまる、よな」
返事はわかってるつもりだった
困らせることはわかっていてもどうしても彼女と一緒におりたかった。何度も何度も狂ったように名前を呼びながら、下着を身につけていく彼女の腰に両腕を回して縛り付ける。暗い部屋に差すわずかな光が陶器のような白い肌に反射して美しかった。たまらず、噛み付くようにキスをする。ほんまにずっと一緒におりたいねんて。本気やのに。なんで。なんで。

「好き、〇〇さん好き、んっ、好きやで、ほんまに好き、」
「やめて」
「嫌や、 んっ、、印つけたい、俺のんって、、なぁお願い 」
「ダメだってばっ、」
震える手で俺の腕に手を置くと、こんなんで抵抗になるのか、と驚くほどわずかな力で押し返す。
どうあがいても俺と彼女の辿る道が1つに交わらないのは俺たちが生まれた時から決められていたのかもしれない。
腰骨のキスマークすら付けさせてくれない彼女は何から身を守ろうとしてるのか。
「、っなぁ最後、、最後にするから」
もう一度だけ俺の腕の中で鳴いてほしい


ブラとパンツをすでに付け終わった彼女をもう一度ベッドに優しく押し倒す。上下で揃えられたワインレッドのそれは彼女の儚さの中に隠れた情熱を謳うには充分だったけど、これも俺じゃない誰かのために選んだのかと思うとどうにかなってしまいそうだった。
「、あんまり見ないで」
「なんで。むっちゃ綺麗やで」
やっぱり嫌だと言っていたのは言葉だけ、体裁だけで、本気でダメだったら俺を蹴ってでもこの部屋を出て行くはずなのに そうしないのは卑怯だ。何もせずただ俺を待ちわびる目を向ける彼女の頬に手を添えると擦り寄ってくる。それがまた俺を離れられなくさせるのに、本当は俺を離す気なんてないんじゃ無いかと錯覚してしまう。
触れ合うだけのキスからだんだんとお互いを求め、深くなっていく。上の歯の裏側を舌の先でなぞってやるとクッとあがる細い肩。
「もう、いい?」
「来て、忠義くっ」
苦しそうに両手を広げて迎い入れようとするあなたが やっぱり俺のものだって勘違いしそうになる。
俺の形のまんまのそこにゆっくりとおさめていく。ついさっきまで1つになっていたから当たり前なのに、それすらも嬉しいなんて、こんなに些細なことでしか舞い上がれないなんて。
「んっ、忠義くん…?」
「ちょっと、このままでもいい?」
動きたくない。動かずに〇〇さんをずっと感じていたい。行為を先に進めていくたびにこの現状を納得しきれない俺が出てきてしまうから、ずっと このままで。



ご結婚おめでとうございます!
ステキな家庭を作ってくださいね!!
今度は旦那さん連れて来てくださいよ!
部署内で飛び交う言葉に背中からつき刺される感じがした。どれもこれも俺が聴きたくないものばかり。誰のものでもなくて俺のものになって欲しかった。

「ご結婚おめでとうございます」
「ありがとう、大倉くんも幸せになってね。」

やっとの思いで口から出た言葉はありきたりだった。
俺の幸せは〇〇さんとじゃなきゃ、作れないのに。
好きになれずにいられたのなら、こんなに苦しい思いはしないでよかった。
どんなに想って愛し合っても決して報われない。

それを汲み取った貴方の顔が、この世で一番美しいものに思えた。






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