イッツマイソウル
顔が整ってるわけでもないし、むしろパッとしない、そんな第一印象に何を思ったわけでもなかった。そんなんだったら隣のちょい小綺麗にした女の方がよっぽど目を引いたし、そういうんが世間一般でいう“かわいい”に属してるんだろう。他の奴らはみんなそこそこやのに俺の目の前のコイツだけは ふつう やった。ふつう。ほんっまに ふつう。不細工とかやないけど、言うて華やかでもない。時間の無駄だということを踏まえた上で、さっきからコイツが今日ここに来てる理由だけを考えていた。
合コンと謳ってる割になぜか居酒屋にいる男女8人。何をどうしたら合同コンパで ビールかごと赤提灯の似合う路地裏のココにつながるのか、主催はほんま何を考えてんねん。頭んネジ足りてへんのとちゃうか。おいヨコ、お前やぞ。鼻の下のばして きっもち悪い。
もともと数合わせで来た俺は目立たへんように端の方に座った。俺は俺で枝豆食いながらボチボチやっとくからお前らは楽しんどけ、と少しばかりの僻みものせて。酒が適度に入り、男女関係なしにガハガハと笑うようになった6人に冷たい視線を送ってみた後。チラッと前を見やると綺麗な姿勢で淡々と魚の小骨を取り続ける彼女が目に入った。もう冷え切ってしまった、誰も手をつけてない鯛の姿煮を丁寧に取り分けるのがやけに印象的で、思わず見入ってしまった。
「…、なんですか」
「あぁ、なんや、その…魚食うんうまいな」
「これくらい誰でもできるでしょ」
逆にできない人いるんですか、とこちらを一度も見ないまま嘲るように笑う。
誰でもできるわけやないねん。前言撤回。やっぱ可愛げない。
それからも時々見える綺麗な仕草に目が離せなかった。
おしぼりが入ってたビニールは綺麗に結ばれていて、皿の上も食事したんかってほど綺麗。箸の袋できちんと箸置きを作ってそこに箸を置く。取り分ける量は自分がきっちり食べれる分だけ。とにかく無駄がなかった。
他とは違うそんな彼女に、もう俺は夢中になってたんやと思う。
「なぁ、2人で抜けへん?」
「終電逃すからごめんなさい」
「は、そんぐらいええやろ。俺が送ったるって」
「男の“送る”ほど信用ならないものないじゃない」
お前、言うたな。絶対落としたる。
後日、アイツが気になってると言うと「あいつは無いやろ」と全員一致で一蹴された。可愛げがない、らしい。まぁそらせやろなって思うけど、そのうちに秘めたるなんとやらに気づかれてないんだったら俺の1人勝ちやな、って、
余裕こいてたんが阿呆やった。
やっと取り付けた2人での外食の約束。柄にもなく緊張して集合場所に行った日、時間になってもアイツは来なかったし、それからしばらく待っても既読すらつかん。それなりに心配になってきたけど連絡つけへんから何もできなくて、そんなことをしてるうちに鳴ったのはLINEの通知を知らせる音。
《ごめんなさい。行けなくなってしまったのでまた埋め合わせします。》
と、うさぎが平謝りしてるスタンプ1つ。
なんやねんな、行けなくなったんやなくて絶対行かれへんのわかってたやろ、これ
《もしもぉし、すばるくんですかぁ、?》
《飲んでまぁす、かえりまぁす。お迎えどこまでぇ??》
呂律がほとんど回ってない口調で、誰も行く言うてへんのにちゃっかり迎えを要求してくる。はいはい、と相槌を打ちながらもベットから出てダウン羽織って車のキーを無意識に取ってるあたり本能でしかない。
3時間前に寝たばっかやのにってボヤきつつもちゃんと車内温かくして片道30分の道を走らせる。
「何時やと思ってんねん」
「えへへへ、ごめぇん。すばるくんだいすきぃ」
「っ、もう絶対せぇへんからな」
「……」
「…聞いとけや」
そんでもってしっかり彼女の家に送り届け、枕元に水をおいて何もせずにきた道を戻る俺は できた男やと思う。
「なんですばるくんって彼女いないんだろうね」
「逆になんでやと思う」
「えぇ、わかんない」
お前に惚れてるからやんけ。なんて言い出せるわけも無く。人の気も知らないで「顔が怖いからじゃない?」「可愛い子紹介しようか?」なんて辛辣な言葉を容赦なく吐くのはお前だけや。こんな女見たことない。今までの女は大体途中で気づいたんに、この鈍感娘。挙げ句の果てに、元カレがしつこいから彼氏のフリをしてほしいなんて我儘を言われてしまったら、為すすべはない。
俺はこいつに一生振り回されて死んでいくんやな、なんて半ば諦め。
2時間の待ちぼうけも、トドメを刺すドタキャンも
深夜2時のお迎えコールも、ありえないワガママも
機関銃のように吐いた無神経な言葉すらも、
お前にムチュウやから何でもかんでも許してしまう
お前を思い出さない夜なんて無いのに、
俺はこんなにもお前に首ったけなのに、
はよ俺のもん なれ
なんやねん、すばるくんらしく無いって。うるさいわ。一生に一度の告白やんか。
惚れたもんはしゃあないやろ。
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