Queen II
「おつか…ちょ、待てや」
定刻よりも早く建物から出てきた彼女はこの寒空の下で乱れたまんまのダウンとシャツを羽織っているだけだった。
あれから半年、ただただ○○をホテルまで送り、客が違約したら金を払わせる。それの繰り返し。
淡々としてるけどお金はちゃんと入るし 居酒屋のバイトとか比べ物にならへんからもう戻れないと考えたら、いよいよ半身浸かってるわと思わず笑いが溢れる。
「なんでいっつもこんな寒い格好してくんねや」
「これしかないし」
「はぁ…?これより厚手のあるやろ、今度からそれ着てきぃ」
なにも言わない彼女に自分の羽織っていたジャケットを肩にかけると、想像以上に細い女の子らしさが急にストレートをかますもんだから動揺に震える。
まぁ 震えたのは寒さからかもしらんけど。
とか言って、俺が頭抱えてんのにこいつは
「オオクラ。お腹すいた。」
*❤︎*
「あのな、俺年上やねんで?わかってんの?」
「ふん、おおふは ありはほう」
「おまえな…」
「こっちおいひぃよ。はへふ?」
「…いらん」
先に戻ってるとだけ声をかけ1人車に戻る。音を立てて閉められたドアが軋んだ。
その場所だけが不気味に明るいコンビニの白灯の下で美味しそうにあんまんをほうばっている姿を車内から見てるだけ。
これだけ見てたら普通の女の子やのにな
なんでこんなことしてるんやろ、
○○の事なんてどうだっていいのに しょうもないこと考え始める自分が憎らしい。
「あいつが何してたって関係ないやろ…」
ほんまに関係ない
他人のこと気にしてる余裕なんて持ち合わせてないし、仕事場の女1人 気にしてたらこれから何十年もどう生きてくねんっちゅう話や。
*❤︎*
「有給も気軽に取れる!」とかあれ嘘。つくづくここは嘘ばっかや。○○に仕事が入ったら俺も出勤。要は稼ぎ頭のコイツがここで働き続ける限り俺は毎日出勤しなきゃいけないわけで。今日は待ちに待った休暇。あいつの客がキャンセルになって山崎さんから来なくていいと連絡が入ってるのを確認した。
「あぁ、うっまぁ」
生憎の連勤のために家にまともなもんが無くて酒とつまみを買いに出た帰り道、我慢できずに開けた酒がしみる。
なんて言うんやったかな
水を得た魚?…違うかも
道端に転がる空き缶を蹴るとカランカランと虚しい音を立てて転がっていく。
と、空き缶の行く先には明らかに歳の離れたカップル。男の方は人相がちょっと悪いけどまぁ普通のサラリーマンで、女の方は長いブロンドにあいつがよく着てるような薄手のダウンを羽織って…………あいつに似て……まったく笑わへん………その……人形みたいな顔………………
なにしとんねや
あいつ今日休みちゃうんか
熱いものがフツフツと喉の奥から湧いて出る。
なんで…
おまえプライベートでもこんなんばっかなんか
“あいつが何してたって関係ない”
ここ最近ずっと俺の頭を占めてる言葉が反響して聞こえる。
誰といようが、誰とヤろうが、あいつの自由なのに、どうしてこうも俺は…
俺がそれにとやかく言う権利は無い
それがしんどい、
なんで…
あぁもうわかれへんけど!!!
俺は今あれを止めなあかん気がする
「おい待てや」
「…どちら様でしょう」
「コイツの保護者。…っちゅうことなんで返してもらっていいっすか?」
「そ、それは大変失礼致しましたっ」
「泊まるところが無いというもんですから」
「では、私はこれで…」
足早に去っていく男、そりゃ焦るわな
ざまぁみろ
「…おま」
「最低」
「は?」
「あんたが変なとこで出てくるから今日の稼ぎゼロになった」
「何を…」
「あっそう、あんたが今夜の相手になってくれんの」
「ちょ、落ち着け」
「落ち着いてるって。獲物逃したあんたが悪いんだから あんたのコレ貸せって言ってんの」
コレ、と 握られたところがアツくなる
なんで反応してんねん…、今はちゃうやろ
「あんただったらまけてあげる」
さっきまでの冷たい陶器のような表情が少しだけ崩され、ニィッと口元に三日月が浮かぶ。
「ソレ、元気になっちゃってますけど大丈夫ですかお兄さん」
今日だけ、今日だけやから…
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