3週間ぶりの夜が始まるその手前


繁忙期を迎えた彼氏となかなか会えない。そんなことは長い間 時間を共有する間に理解していたはずなのに。何故だろう、今日はとことん寂しさが募る。
リビングで甘さ控えめのホットココアと共に待っていても、いつも2人で見ているバラエティ番組を見ていても、現実は変わらない。3週間前に「忙しくなるから暫く会えない」と口頭で言われたのが最後。べつに忠義を疑ってるわけでもなんでもない。毎週のようにある生放送の音楽番組を見ていれば分かる。わかる、はずなのに。寂しい。
ベッドの上には畳まれた白のパーカー。抱きしめてみると、洗ったはずなのにふわっと香るのは彼の匂い。ちょっとだけだから。誰かに言い訳をしてそれをすっぽりとかぶった。フードまでかぶってしまえば完全に忠義に包まれている感覚さえ込み上げてくる。
ちょっと、だけ。

「んっ…」
パーカーを着ただけでこんな風になることに自分でも驚いた。けど、心も体も彼を求めているのなら、それほど幸せなことはないな と 逆にそれはそれで良かったりして。袖を鼻に持っていくと安心する匂いがぶわっと押し寄せて目眩がしそうだ。いつも彼がしているように指を入れて触ろうとしてみても、その場所にすら届かないのが酷く辛い。仕方がないから出し入れするしかないのが、また寂しくさせる。
「たぁっ…くぅ、、はぁ…」
一度頂点に達したが、身体の熱は相変わらず冷めようとはしてくれない。でも、このまま1人でしていても虚しくなるだけだ。と、気怠さと少しばかりの快楽と共に布団に包まれる。
ねぇ寂しいよ、忠義。




*❤︎*




「ただいま」
年末番組の収録も歌番組も一通り落ち着いて、やっと彼女の家に寄ることができた。時刻は23:17。しん、と静まり返る奥につながるドアを見つめつつ、流石に寝てるよなぁと、なるべく音を立てずに寝室に入る。
布団に口元が隠れるまでくるまって寝る彼女の頭を優しく撫で、ごめん、と一言。「、好きやで」と柄にもなくおでこにキスをして立ち上がろうとした瞬間、何かを踏んだことに気づく。タオルぐらいちゃんと洗濯機に入れなあかんやん、なんて何の気なしに、その“タオル”にしては厚さのない ざらっとした手触りのものを拾い上げる。


「うそやん、」
ヒラヒラと薄いピンクのレースがついたパンツと脱いだままのストッキング
タオルとかそんなんちゃう。…となると、こいつは今下に何もはいてないんじゃないか。勘弁してくれ。流石に俺も色々溜まってるもんがあんねん。こんな遅い時間にやめとけ、と自分を制してももう遅い。腰の部分がグッと押し上げられる感覚に襲われる。こんなんでも興奮する俺って最低やろ、と卑下しつつ どうしようもない葛藤に襲われる。今更彼女を起こすわけにもいかないし、風呂場で抜くしかないか。なんて、何が悲しくて彼女がおって一人寂しく処理せなあかんねん。


「ん、?ただよし、」
はぁ、と深いため息をこぼした瞬間、眠り姫が目を冷ます。
「ごめん、起こしてもうた」「んーん、おかえりなさい」「ん、ただいま」
寝起きでふにゃっと笑う彼女が可愛い。それがさらに戻れなくさせんのをわかった上で見てしまう。ダメだとわかりつつやってしまうのは人間の本能なわけで。


「なぁ 寂しかった?」「…寂しくないよ」「の割に、これ俺のやん」
「これはっ、」「下も、なんで履いてへんの」「っ…」
ペラっと布団をめくると露わになる彼女の身体。ダボっとパーカーを着ているが、下は何も履いてない。これがまたエロい。布団をまくった瞬間に独特の生々しい匂いが鼻をついて、あぁもうこれは、と一人確信する。
「1人でした?」「ちゃんと届いた?」「どうせ届かんかったんやろ」「不完全燃焼ちゃうん」
涙目になって頑なに何も言わないでいる彼女を見て、ちょい虐めすぎたか、と頬を撫でてやると擦り寄ってくる。それがあかんねんて。
手をベットについて半身を起こした彼女にじっとりと睨みつけられる。
「寂しかった」「うん」「…寂しかった」「ふふ」「…、これ着ても寂しかった」
「そっか、寂しかったなぁ。ごめんごめん」
こんなに甘い雰囲気になったことは無いんじゃないかと。ひょっとして 好きなんは俺だけなんじゃないかと思うこともあったけど、あまりこういうことを言わない彼女から“寂しい”と俺を求める言葉が聞けたことに顔がだらしなくなるのがわかった。
「じゃあ…しますか?」
瞬間、ふふふっと嬉しそうな顔をする。
今から 大人の行為をするというのに、子供らしく無邪気に笑った彼女を どうにもこうにも手放せそうにない。





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