Queen
「うちの社員は私含めて5人、事務の子1人と後3人は嬢ね」
「え」
「大倉くんだよね?ヨコの後輩なんだって?」
「はぁ」
「あー、私いちおう社長。山崎です、よろしく」
「あっ、よろしく…じゃなくて」
話と全く違う。
働いていた会社が倒産というまさかの事態に襲われてる俺が何とかたどり着いた先。高収入のバイトに就きたくて大学の時お世話になった先輩に“優しい女の人がおる結構ええとこあんねんけど”なんて言われて飛びついたらこれだ。
壁にはビキニや裸にエプロンなんかの女のポスターがいくつか貼られている。昭和の建物を思い起こさせる小さなビルの二階にオフィスがあるそこは、紛れもなく 風俗とかデリヘルとかそういうものを扱う場所だった。
「君は車回してくれるだけでいいから。」
日当コレね、ピースをしてニヤリと微笑む。
2万。
話がポンポン進んで何となく付いていけない俺は、山崎さんのいくら喋っても唇からタバコを落とさない器用さがすごいなぁ と思った。
「車回すって、どこにっすか」
「ん?ホテル」
「えっとそれって、」
「そーゆーホテルね」
やっぱり…、横山くんなんも言ってくれへんから。
「あの、聞いてた話と違うんすけど、」
「え?ヨコにちゃんと聞かなかったの?」
「割りのいい仕事としか…」
「あんのガキ、ちゃんと説明しろ言うたやろ…」
タバコをぎりっと噛んで、口の奥で舌打ちをする。長い髪をかき分けた時うなじに見えたのは蝶々。さっきからうすうす感じてはいたが多分そっちの人だ。
やばいかな、まだ28やし警察のお世話になりたくないんやけど。
「あ、やっぱり僕…」
「あぁー、また詳しいこと説明するから今日は帰っていいよ」
断ろうとしたところでタイミングよくかかってきた電話に遮られる。
ゴリッゴリの関西弁で電話の向こうの相手と口論を始めた山崎さんに 失礼します、とだけ告げ俺はそのビルを後にした。
*❤︎*
「おはようございます」
「おー、逃げなかったんだ、偉いわ」
「いや逃げたら絶対怖いっすもん」
「わかってんじゃんか」
シャレにならへん。
あははと豪快に笑う山崎さん。の横には大きな白いタオルでくるまった女の子。女性、というよりまだ女の子の方が似合う、多分17.8。
「あんたの担当、○○。うちの稼ぎ頭。問題児だけど仕事はやるから安心して。」
ゆっくりと俺を見上げる彼女の目は冷たい。髪はボサボサだったけれど綺麗な金髪に染められていた。
両耳には複数のホールがあったが、どこにもピアスは付けられてない。綺麗で長い睫毛と高い鼻筋、中性的な顔が印象的だ。
○○が仕事してる間は外で待機
終わったら電話入るはずだから
部屋まで迎え行ってあげて
基本的に○○の客はヤバイこと
やってくるやつばっかだし
まぁそん時は…
大倉くんが何とかしてね♡
この時点で騙されてんなと思った。
送り迎えだけちゃうやん。片足つっこんどるやん。まさか横山くんがこんな所と繋がりあるなんて思わへんかった。大阪帰った時に何か奢らしたろ。
・*・
『ひぃ、すみませっ…』
「謝る暇あんなら金出せ」
『で、でもこれは合意の上で』
「合意もクソもないやろ。違約や、違約。ほれ、金出せ。」
本番禁止言うて誘って違約金
あー、ぼったくりやなー、流石 山崎さん。
「10万…」
「あんたさ、初めてじゃないでしょ、こーゆーの」
「は?」
「ほらその顔とか、パパ総長?」
「なわけ…、初めてやわこちとら。」
「えぇ、嘘ぉ。案外天職じゃない?大倉くん似合ってるよ脅し役。」
女の子との初めての会話がこれってどうかしとるな。先程まで知らない男と性行為をしていたにも関わらず既に服を着て窓に寄りかかってタバコをふかしている。
相変わらず目元は冷たいままだったが、にぃっと口元だけを緩めて話す彼女は夜の闇に溶け込まず煌々と輝いていて何故だか綺麗だった。
「…吸わないの?」
「禁煙中」
「そら大変だ」
「お前こそ未成年やろ」
「にじゅーさんだし」
「は」
「大倉くんとね、5歳しか違わないんだなぁ」
タバコの煙をプハッと吐いて微笑む。どうあがいても目元は強張ったままの彼女は、俺と5歳しか違わない彼女は、この小さい身体で何を背負ってきたのか。
俺には、知らないことが多すぎた。
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